犬,猫のてんかんの原因と対処,治療法について|獣医師が解説|アポロ動物病院
志木市、さいたま市、朝霞市、新座市、富士見市の皆様こんにちは。埼玉県志木市のアポロ動物病院です。
今回は、犬、猫のてんかんについて、病気の原因や対処法、治療方法について解説していきます。
当院では、犬や猫のてんかんの治療を行っておりますので、お悩みの場合は一度ご相談ください。
◆【まず最初に】てんかんの症状が出た際に行っていただきたいこと【対処法】
「倒れてしまって足をバタバタさせたまま起き上がれない」、「横に寝て手足がぴーんと突っ張っている」などのてんかん発作かも知れない症状が起きてしまったらどう対処したらいいのでしょう。
①まず発作の起こっている時間を計ってください。
発作を発見したらまずスマホなどで時刻を確認し、おさまったと思ったら再度時刻を確認して症状の持続時間を計ってください。
通常の発作は数十秒から1,2分でほとんどのばあいすぐおさまります。
ただし、まれに5分以上発作が持続する、または収まりそうになるが完全に終息せずに繰り返す「てんかん重積」という状態になってしまう場合があり、この場合はなるべく早く発作を止める必要があるため持続時間の計測が大切になってくるのです。
②次に周囲をざっと見回してください。
ソファの上など転落しそうな場所で発作を起こしてしまった場合はそっと床の上に下ろしてあげるといいでしょう。
また倒れてきそうなものがある場合にはそれをどけて事故の予防をまずしてあげて下さい。
③スマホなどで症状が起こっている様子の動画を撮影してください。
その症状がてんかん発作かどうか、私たち獣医師は症状そのものを観察することによって診断します。
しかし動物病院来院時には発作が治まっていることも多く、その場合動画があると診療が非常にスムーズになります。
・「部屋が明るい状態」
・「顔の表情と全身の様子がどちらも入った画角」
で撮影してください。
また症状がおさまるまでにかかった時間やおさまってきてからの行動にも治療のヒントがあることがあります。
症状が落ち着いたなと思ってから数十秒から1,2分程度まで撮影し続けていただくと有用な動画が撮れます。
④動物が落ち着けるようにむやみに揺すったりしないようにしてください。
揺すったり刺激を加えるとかえって発作が長引くことがあります。
◆犬猫のてんかんとは
「てんかん」は脳の中で強い異常な電気信号が出てしまうためにけいれんなどの発作症状を繰り返す病気です。
犬では多く発生し、その確率は犬全体の1〜2%(100頭に1〜2頭)の割合と言われています。猫では比較的珍しく猫全体の0.5%(200頭に1頭)の割合と言われています。
てんかんには病気のタイプが大きく分けて2種類あると言われますが、一般の飼い主さんが理解しやすいのは三通りに分ける分け方だと考え、アポロどうぶつ病院では普段そのようにお話ししています。
1)「症候性てんかん」
脳の中にてんかん以外の病気(脳腫瘍や脳炎、水頭症、脳いっ血/脳梗塞のような脳血管障害)が発症し、そのために症状の一部としてけいれん発作がおこることを「症候性てんかん」と言います。
病気の根本はてんかんではないため元の病気をどのように治すかが大切になります。
犬ではてんかん全体の4割、猫では犬より多めでてんかん全体の6割が症候性てんかんだというデータもあります。
2)「特発性てんかん」
以前は「真性てんかん」ともいわれていました。
詳しく検査しても脳に何も病変が見つからないが発作を繰り返すてんかんです。
病変がないわけではなく、脳の神経細胞の表面という非常に小さい部分で異常がおこるため現在の技術では検出できない、ということになります。
神経細胞の表面の異常がおこる詳しい原因は分かっていませんが、遺伝子的な問題によるのではないかと考えられています。
ビーグル、シベリアンハスキー、シェルティ(シェトランドシープドッグ)、キャバリアキングチャールズスパニエル、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード、イングリッシュスプリンガースパニエルなどの犬種に家族性(兄弟や親子で発症が見られること)の発生が報告されています。
(特発性てんかん自体は上記犬種のみに起こるわけではなく種類に関係なく全ての動物に起こる可能性があります)
3)「非てんかん発作」
脳以外の病気の影響が脳におよんだ結果、てんかんによく似たけいれん発作が起こることです。血液検査などで異常を見つけて診断していきます。
非てんかん発作を起こす病気としては、
・低血糖症、(インスリノーマ)
・尿毒症、(急性腎機能障害、慢性腎臓病、腎不全など)
・低カルシウム血症、(子癇、産褥テタニー)
・肝性脳症、(門脈体循環シャント、門脈低形成など)
などが代表的です。
この場合、抗てんかん薬を使用することはかえって発作を起こりやすくしたりすることもあるので、元になっている病気を治療していくことが大切です。
◆犬猫のてんかんの症状とは
1)全般発作(大発作)
前述の「倒れる」「足がぴーん」「足をバタバタ」などに代表されるいわゆる「けいれん発作」といわれる症状です。
脳内全体に異常な電気信号がひろがり、そのため体の全ての自由が利かなくなり、全身に異常な動き(けいれん)が起こり、多くの場合はその間意識を失っています。
ぴーんと力が入って足が突っ張るようになるのを「強直性発作」、足をバタバタさせたり、体全体がガクガクとけいれんするのを「間代性発作」といい、両方とも起こるのを「強直性間代性発作」といいます。
2)焦点発作(部分発作)
脳の一部分に異常な電気信号が起こって、その部分にだけ症状が出る型の発作です。
どんな症状が出るかは異常な電気信号が起こる場所によります。
たとえば、視覚に関係する部分に発作が起こった場合は急に目が見えなくなる、前肢の動きを司る部分に発作が起こった場合はその足だけけいれんする、ハエ咬み行動(なにもないのにハエに咬みつくかのように空中に咬みつこうとする異常行動)などです。
焦点発作が全般発作に移行することもあります。
3)ミオクロニー発作
筋肉が全体的に電撃を受けたように急激に何度も収縮する発作で、意識はあるときもないときもあります。
その他に欠伸発作、脱力発作などのマイナーな発作もあります。
よく観察していると発作が起こる前に毎回同じ前ぶれ(アウラ)が起こっていることもよくあります。
たとえば急に走り出すとか、体が必ず同じ方向に揺れ出すなどですが、動物ごとに違います。
前ぶれを見つけることが出来れば、その後に発作が起こることを予測できるようになりますので、心の準備が出来たり、発作に対応しやすくなるメリットがあります。
また発作後にはしばらくもうろうとしたりふらつく時間帯があります。(発作後症状)
数分から数十分の発作後症状の後は全くの普通な状態に戻りますが、ときどきその時間帯に嘔吐をすることもあります。
発作後症状も全て落ち着いて普通の状態(発作間欠期という)に戻った後は特にやるべきこと、やってはいけないことなどはありません。
ふだん通りに生活しても大丈夫です。
◆志木市のアポロ動物病院のてんかんの診断の進め方
①受付
来院されたらまず受付で現在の状態を簡単にお伺いします。
ネットから診療予約をしてからご来院いただくのがスムーズですが、発作を起こした直後、重積状態などの時は直接ご来院いただいても診療いたします。
状況に応じて診療の順番の調整を行うことがあります。
②問診
現在の状況や発作の様子、過去の経過などについて再度詳しくお伺いします。
ほとんどの場合診察時には発作が治まっていることが多いため、飼い主様から聞くお話しが診療を進めていく重要な手がかりになることが多いです。
そのため他の病気の診察よりも問診の重要性が高く、問診の間にご自宅で撮影されていた動画がある場合は拝見します。
③身体検査、神経学的検査
痛みや動きの異常、姿勢の異常がないか、また神経の反応や反射におかしなところがないか調べます。
特発性てんかんの場合は発作を起こしていない時間帯に神経学的検査に異常が見られないことが一つの特徴です。
しかし「異常がない」は「僅かな異常を見逃している」と常に隣り合わせなので、この場面での注意深い神経学的検査は非常に重要だと考えています。
④血液検査、尿検査
発作が起こったタイミングと診療のタイミングによってはつぎに血液検査や尿検査を実施します。
「非てんかん性発作」を引き起こす脳以外の場所の病気がないか調べるためです。
発作が起こってから時間が経ちすぎているとこれらの検査をしても発作を起こした時点での体の中の状態を正確に反映していない可能性もある(発作を起こした直後だけ血液(尿)検査に異常が出る事があるため)ので、かならずしもこの時点で検査を行わないこともあります。
動画などで明らかにてんかん発作だと確認でき、この時点で神経学的検査に異常が見つかった場合は、まず第一に考えるのは「症候性てんかん」です。
脳内に何かてんかん以外の病気が起こっていることが予想されます。
くわしく診断するためにはMRI検査、脳波検査、脳脊髄液検査などをおすすめしています。
これらの検査はアポロどうぶつ病院の設備では実施できないため、専門の検査センターや神経科の専門診療に対応した動物病院をご紹介することもあります。
またこれらの検査はできれば受けて頂きたい検査ですが必須ではない場合もあります。
検査自体が比較的高額なこともあり、飼い主様と検査を行うメリットデメリットについてよく話し合って今後の方針を考えていただくよう心がけています。
次に、てんかんのような発作が起こっており、血液検査で何らかの異常が見つかった場合、「非てんかん発作」を起こす脳以外の場所の病気があると言うことになります。
たとえばアンモニアが上昇していれば肝臓に門脈体循環シャントなどの病気があると言うことが強く疑われますので、つづいてアンモニア負荷試験や総胆汁酸測定などのより肝臓に特化した精密検査を行うと共に超音波検査で肝臓やその血管に異常な部分がないかどうか探していくことになります。
血液検査にも神経学的検査にも異常が見られない場合は「特発性てんかん」がもっとも可能性が高くなります。
より正確に診断をするためにはMRI検査を行い、確かに脳の中になにも異常がないことを確認することが本来の流れです。
ただ前述のように全身麻酔のリスクや検査費用などを総合的に考えて、確定診断まで進まずに仮診断で留めて次のステップをどうするか相談していくこともあります。
◆犬猫の特発性てんかんの治療
てんかんと診断した場合、すぐに治療が必要になるわけではありません。
発作が落ち着いていれば特に治療をしないで経過観察となることもあります。
アポロどうぶつ病院でてんかん治療をおすすめするのは次のような場合です。
・1ヶ月に1回以上の発作があるとき
・群発発作が1年に2回以上起きたとき
・てんかん重積が起こったとき
・発作後の症状が特に重いとき
・症候性てんかんの時
てんかんの治療は「抗てんかん薬(抗けいれん薬)」を使い発作の回数を減少させ、症状を軽くして脳の損傷を予防するのが目的です。
現在のところ特発性てんかんを引き起こす脳神経細胞を直接なおす治療はまだありません
てんかん治療のゴールは
・発作が起こる頻度を治療開始前の1/2以下にする
・発作自体を治療開始前より軽くする(時間を短くしたり、けいれんが少なくなるなど)です。
これらを通して、てんかんになった動物の生活の質を上げ脳損傷を予防して寿命を短くさせないと共に家族の方々の心配を取り除いていくのが治療の大きな目標になります。
◯アポロどうぶつ病院で使用する抗てんかん薬
多くの場合下のような薬を1日に2回自宅で家族に投与してもらいます。
検診は定期的(最初は2,3週間ごと、その後だんだん間隔を空けていける)に行い、副作用がないか、治療に影響する他の病気が起こったりしていないかとチェックするために半年〜1年に一度ていど血液検査を行うのが一般的な流れです。
・ゾニサミド(エクセグラン、コンセーブ、エピレス)
現在犬と猫のてんかん治療で主流になっている抗てんかん薬です。
副作用が少なく効き始めが早いので安心して使える薬です。
・フェノバルビタール(フェノバール)
ゾニサミドが使われるようになる前にてんかん治療の中心となっていた薬です。
古い薬とは決して時代遅れということではなく過去の豊富なデータの蓄積があるということでもあるので信頼性は高い薬です。
肝臓の障害が副作用としてで安いので定期的な血液検査が必要になることが多いです。
治療効果はゾニサミドとフェノバルビタールのどちらが優れているということはなく、一頭一頭薬との相性が違うので、ゾニサミドでおさまりやすいてんかん、フェノバルビタールでコントロールしやすいてんかんと効き具合によって選んでいくようになります。
・臭化カリウム
ゾニサミドやフェノバルビタールを単独で飲ませたときに発作を抑える効果が充分でなかった場合や肝障害があってこれらの薬を増量しにくいときに併用することがあります。
粉薬を水に溶かして投与しますので、投与のしやすさには善し悪しが分かれやすいお薬です。
代表的な副作用は多食(食欲が増す)
血液検査に異常が出やすいので定期的に検査が必要なのと、効果が出始めるまでに2,3週間と時間がかかるのが短所です。
・レベチラセタム(イーケプラ)
ゾニサミドやフェノバルビタールよりもさらに発作を抑える効果が強力で、難治性のてんかんや発作の重い症候性てんかんなどに使用します。
副作用もふつうはほとんどなく、注射薬もあるので重積時のコントロールからそのまま経口薬に移行することが出来るのも利点です。
ただ薬価が高価であることと、3〜5ヶ月投与し続けていると効果が落ちてくる(ハネムーン効果)ため、長期間にわたって続けるのは難しい場合が多いとされています。
その他に時々使用する薬剤
・ジアゼパム(セルシン、ホリゾン、ダイアップ)
・ガバペンチン(ガバペン)
◆犬猫のてんかんの予後
ある病気が最終的にどのように進んだり治ったりしていくのかということを『予後』と言います。
てんかんの予後は、
・「特発性てんかん」の場合
きちんとその動物に合った抗てんかん薬を見つけることができて、てんかん発作を充分に抑えて治療目標の達成が維持できれば、てんかんを持っていない健康な動物と同じように寿命を全うできるとされています。
・「症候性てんかん」「非てんかん性発作」の場合
発作の元になっている病気に対してどう治療するか、その病気が治るかどうかに大きく左右されます。
一般論で言うと発作を引き起こすような状態というのは、同じ病気の中でも発作を引き起こさない状態より進行していたり重い状態が多く、ていねいで慎重に治療を進めることが大切になってくることが多いと思われます。
◆【重要】「てんかん重積」「群発発作」について【緊急】
ふつうのてんかん発作は前述のように発作そのものの持続時間は短く、ふらふらしているなど前ぶれの時間を除くと多くは数秒〜数十秒〜1,2分以内です。
しかしときどきてんかん発作が持続して止まらなくなったり、止まりそうになるのに完全に終息せずにまた波が来て繰り返すようになってしまうことがあります。
この状態のことを「てんかん重積」状態と言います。
てんかん重積を起こすと発作自体が脳神経細胞を傷付け(発作性脳損傷)、傷付いた脳神経細胞がさらなる発作を引き起こすという悪循環に陥ってしまいます。
その結果、時に重い後遺症が残ったり、最悪の場合死に至る可能性もあります。
そのため重積状態であると診断した場合にはなるべく早急に発作を抑えて脳損傷を最小限に食い止めるための治療が必要になります。
てんかん重積状態かも知れない場合は一刻も早くどうぶつ病院を受診することが必要です。
アポロどうぶつ病院は通常診療は予約制ですが、このような場合には救急体制で受け入れられるように準備いたしますので、まずはお電話でお問い合わせ下さい。
また、夜間など通常の診療時間外の場合はためらわずに夜間救急に対応した機関を受診することをお勧めします。
また24時間以内(一日以内)に複数回の発作が起こることを「群発発作」と言いますが、2朝と晩に2回などの軽いものではなく、数十分から2,3時間以内に繰り返し繰り返し発作が起こるような重症の「群発発作」も同じく発作性脳損傷を引き起こす可能性があると考え、てんかん重積と同じように治療することがあります。
◯てんかん重積の治療
通常のてんかん治療に使われる経口の抗てんかん薬(抗けいれん薬)は効き目が発生するのが通常数十分〜数時間後と遅くなります。
(飲ませる→胃腸で吸収される→血管中に移行する→脳に回るまでの間にどうしても時間がかかる)
ですから、効果発現が迅速な注射(または坐薬)の抗けいれん薬を使用します。
通常は入院をさせて静脈確保を行い、抗けいれん薬の静脈注射、または点滴静注を行います。
志木市のアポロどうぶつ病院でてんかん重積治療として使用する薬剤は、
・ジアゼパム(注射、坐薬)
・ミダゾラム(注射)
・ペントバルビタール(注射)
・フェノバルビタール(注射)
・プロポフォール(注射)
などです。
これらの薬剤で深い鎮静状態におくことで脳全体の働きをリセットし、異常な電気信号が過ぎ去っていくのを待つといった治療を行います。
これでもおさまらない場合は気管内挿管を行ってイソフルラン麻酔に移行して管理することもあります。
いずれの場合でも脳の働きを全体的に抑えるため生体活動そのものも制限を受け、自力で呼吸が出来なくなったりして人工呼吸器による換気サポートなどが必要になる場合もあります。
脳にリセットがかかって異常な電気信号が消え去るのに普通数時間〜半日以上かかり、落ち着いた後もすぐに薬剤の投与を止めると発作が再発することもあるため、根気よく少しずつ薬の量を減らしていきます。
完全に注射から離脱できるのに1日以上かかることも多く、その間も薬剤の量や生体反応の調整などをよく見守っていく必要があります。
注射薬を停止しててんかん発作が起こらないことを確認したら、経口薬(飲み薬)の抗てんかん薬(抗けいれん薬)に移行して退院できるようになります。
また、特に重症の場合は、動物の状態や移動のメリットデメリットを総合的に判断したうえで神経科の専門診療を行っている病院をご紹介して転院をお薦めすることもあります。
◆終わりに
てんかんの発作はとてもショッキングで、初めて見た家族の方々はたいていひどくびっくりされて、「このままうちの子は死んでいくんじゃないか」ととても心配されて来院されます。
ただ、症候性てんかんなどの一部を除いて多くの場合はそんなに頻繁に発作が起こるわけでもありません。
また、起こったとしても抗てんかん薬を適切に使用すればしっかりと防いでいくことが可能になります。
ですから家族の方々がてんかんについて知識をきちんと持って冷静に対応していくことがとても大切になります。
アポロどうぶつ病院では飼い主さんとのコミュニケーションを充分に取る中で、そういったことを知っていただき翌日から安心しててんかんに向かい合って頂けるように心がけています。