診療案内

猫の歯肉口内炎

このような症状はございませんか?

  • 口を痛がって食事を嫌がる
  • よだれを垂らす
  • 口臭が強い
  • 口の中に赤みや腫れがある
  • 歯を磨かせてくれない
  • 食事中に鳴き声をあげることがある

このような症状があてはまったら、
猫の歯肉口内炎》の疑いがあります。

Gingivostomatitis猫の歯肉口内炎とは

猫の歯肉口内炎は、猫の口の中、特に歯茎や口内の後方(喉に近い方)の粘膜が炎症を起こしてしまう病気です。
この病気は、猫にとってとてもつらいもので、食事中や口を開けるときに強い痛みが生じることが多くあります。
原因は完全には解明されていませんが、免疫系の異常が関係しているとされています。
猫カリシウイルスや猫エイズウイルスに感染している場合に発症しやすいとされていますが、
感染していなくても発症しないわけではないので、感染していてもいなくても注意が必要です。

猫の歯肉口内炎が進行すると、このような問題があります

口腔内の痛みが悪化

最初は軽度の痛みであっても、炎症が進むにつれて強い痛みに発展します。
これにより、食事の際の痛みがひどくなり、食中・食後に口の周りを手でひどくこすったり、歯ぎしりをするようになったりします。
さらに痛みがひどくなると、慢性的な食欲低下が続くようになります。

体重減少と栄養不足

食べることが苦痛になるため、食事の量が減り、やがて体重減少や栄養不足につながります。
栄養が不足することで免疫力も低下し、病気に対する抵抗力が弱まってしまいます。

健康全般への影響

栄養状態が悪化すると、体の免疫システムも弱まり、他の病気にもかかりやすくなります。
また、歯肉口内炎の炎症が全身に悪影響を及ぼし、慢性炎症が引き起こされることもあります。

生活の質の低下

口腔内の痛みや不快感のため、猫は人や他の動物とのコミュニケーションを避けるようになり、日常の活動も減少してしまいます。
結果的に、生活の質が著しく低下します。

抜歯が必要になる場合も

病気が進行すると、炎症が非常に激しくなり、一般的な治療では改善が難しくなります。
このような場合、歯の一部を抜く「抜歯」が最終手段として行われることもあります。

Treatment当院の猫の歯肉口内炎治療

治療

歯垢歯石除去

適応時期

比較的軽度な歯肉口内炎で、歯石や歯垢の蓄積が見られる場合は、まず歯石歯垢除去のみを行い改善が見られるかどうか、経過を追っていくことがあります。

治療内容

全身麻酔の適用 動物が痛みとストレスを感じないようにし、治療中に動かないようにするために全身麻酔を施します。
局所麻酔 局所麻酔の注射を行い、さらに鎮痛効果が増強されるようにします。
歯垢の除去 歯垢と歯垢内の歯周病菌に対する免疫の異常な反応が、歯肉口内炎の発症のメカニズムに関連していると考えられています。
したがって、歯垢歯石を除去することで、そのような免疫異常が沈静化することを狙います。
スケーラーという器具を使用して、歯の表面と歯周ポケット内に蓄積した歯垢を徹底的に取り除きます。
歯石の除去 歯石は表面に細かい凹凸があることで歯垢の付着が増し、歯周病を間接的に悪化させる要因になるため、歯石も完全に取り除くことが重要です。歯石もスケーラーを使用して除去を行います。
歯の研磨 歯石と歯垢を除去した後、歯の表面を滑らかにするために研磨ペーストとゴムでできたポリッシャーを使用して研磨します。
これにより、再度の歯垢の付着を防ぎます。
歯科用顕微鏡の使用 わずかな歯石や不良肉芽の取り残しも再度の歯肉口内炎発症のきっかけになる可能性があるため、すべての行程を歯科用顕微鏡を用いた拡大視野下で行い徹底的に清掃します。
治療

抜歯

適応時期

歯周病が進行していて、歯冠が溶けていたり(歯冠吸収)、歯肉が下がって歯根が露出しており、単に歯石歯垢を取り除いただけでは、歯肉口内炎がよくなる可能性が低いと考えられる場合は、抜歯も検討します。
どんな歯を抜歯するかはケースバイケースで個別に判断するため、統一の基準は存在しませんが「動揺(ぐらぐら)の程度」「歯根周囲の歯槽骨の吸収の程度」「術後の歯磨き、ケアがどれくらい出来るか」を総合的に考慮しつつ、飼い主様とよく相談して決定していきます。
ただ、歯の上の部分(歯冠)が折れたり溶けたりして、歯根だけ残って顎の骨に埋まっている場合(残根)は、それが歯肉口内炎の悪化させる大きなリスクファクターになると考えられていますので、積極的に抜根をおすすめしています。

治療内容

全身麻酔の適用 動物が痛みとストレスを感じないようにし、治療中に動かないようにするために全身麻酔を施します。
局所麻酔 局所麻酔の注射を行いさらに鎮痛効果が増強されるようにします。
問題のある歯の露出 抜歯する歯をしっかりと露出させるために、周囲の組織を適切に処理します。
抜歯 専門的な器具を使用して、問題のある歯を抜きます。
歯をしっかりと固定している周囲の組織や骨を慎重に処理しながら、歯を安全に取り除きます。
出血の管理 抜歯後の出血を管理し、止血を行います。
傷口の処置 抜歯後に抜歯窩内に残った膿や不良肉芽を丁寧に除去して傷口を適切に処理し、縫合が必要な場合は縫合を行います。
これにより、感染のリスクを減少させ、治癒を促進します。
治療

その他の治療

適応時期

猫歯肉口内炎は、異常な免疫反応による炎症であり、歯石歯垢の除去や抜歯、歯みがきケアだけでコントロールできない場合がしばしばあります。過去の研究によると、抜歯治療を行っても29.3〜39.3%の猫には症状が改善されなかったとの報告もあり、麻酔下歯科治療の前後でその他の治療を併用する場合があります。

治療内容

ステロイド、免疫抑制剤、抗菌薬 口の中で起こる異常な免疫反応を抑えるために、ステロイド剤や免疫抑制剤、抗菌薬の内服をすることがありますが、通常投与は長期にわたることが多いです。
レーザー 歯肉の炎症を起こしている部分にレーザーを当てることで、有用な炎症反応を起こさせたり、急性炎症に転化させることで、炎症が鎮静化することを狙った治療です。全身麻酔時に抜歯治療と併用したり、レーザーのみ単独で実施したりします。
サプリメント 食べさせたり、口の中に塗り込んだりすることで口内炎の症状が和らぐことを期待できる場合があります。表面に穴を開け、そこから専用の器具(ファイル)を挿入して内側を少しずつ削って広げていきます。
インターフェロン インターフェロンや免疫の反応を調整する働きがあり、異常な免疫反応によって起こる猫歯肉口内炎にも、理論上何らかの効果が出る可能性があります。注射や薬剤の口腔内散布などが試みられる場合があります。

Flow治療の流れ

step01

一次診査

初診時には、まず診察室でお口の様子を診察します。
この段階では動物に意識がある状態で痛みや口の動きなどの評価を行うほか、ご家庭での歯磨きケアの状況などについてヒアリングを行います。

重症度 それぞれの部位の歯肉口内炎の進行度合いを確認します。
治療方針 仮の治療計画を立て、必要な治療についてご説明します。
費用の概算 治療にかかるおおよその費用をお伝えします。
術後のケア 術後のご自宅での歯磨きケアのやり方についてすりあわせを行います。

この段階での診断は仮診断となり、確定診断や最終的な治療費は麻酔下で行う二次診査を経て決定されます。

step02

麻酔前検査

歯科の検査や処置には全身麻酔が必須です。
そのため、以下の手術前検査を行い、全身麻酔が可能かどうかを判断します

血液検査 血液の状態を確認し、主に内臓の状態を評価します。
レントゲン検査 おもに胸部や腹部のレントゲンで心臓・肺・内臓に異常が見られないか、頭部のレントゲンで歯や顎の骨の状態を大まかに評価します。
超音波検査 内臓や心臓動きや内部の構造に異常がないか検査します。

これらの検査に基づき、ASA分類に沿って全身状態と麻酔リスクを総合的に評価します。

step03

二次診査

(二次診査は通常麻酔前検査の約1週間後に行うことが多いです)

全身麻酔をかけて口を自由に開けるようにします。
その後より詳しく口腔内と歯の状態を調べていきます。
プローブという専用の器具を使って歯の表面に溶けて穴が空いていないか、歯周ポケットの深さや歯肉の腫れ具合、出血の有無などを1本1本の歯について評価します。
つづけて口の中にフィルムを入れて歯科用レントゲンで歯と歯槽骨の撮影を行います。
これらのデータを総合的に判断して必要な治療を策定します。
一次診査の見立てと異なる場合など改めて判断が必要な場合はお電話にて飼い主様に相談をします。

step04

手術・処置

飼い主様の同意を得た方法によってそれぞれの部位に必要な処置・手術を施します。
術後は全身麻酔を切って覚醒し出血などの問題がないかどうか看護していきます。
退院は処置時間の長さに応じて当日または翌日となります。

二次診査と手術・処置は同日で一連の全身麻酔で行うことが一般的ですが、二次診査の内容について詳しく説明を受けた後改めて処置・手術の内容を見直したいと希望される飼い主様の場合、いったん覚醒させて再度別日に分けて処置・手術を行うことも可能です。

step05

術後チェック

手術後7〜10日後にご来院いただいて再度口腔内をチェックします。
再チェック時は通常全身麻酔は行いません。
この日の診察では、以下の点について確認します。

口腔内の状態 手術後の口腔内の傷の治り具合や1週間での歯垢の再付着の程度を確認します。
デンタルケアの相談 今後のデンタルケアの取り組み方についてご相談いたします。
step06

処置後のアフターケア

アポロどうぶつ病院では、日常のデンタルケアの一環として愛玩動物看護師によるマンツーマンの歯磨きトレーニングを行っています。
また歯内治療を行った場合は3〜6ヶ月後に再度全身麻酔下にて歯周ポケットの深さ測定と歯科レントゲン検査を行い、治療をした歯の治癒が順調か確認します。
猫歯肉口内炎も治りにくい病気ですので、術後の歯磨きトレーニングが非常に重要です。
猫ちゃんの歯磨きは犬より難しいですが、猫ちゃんと飼い主様のがんばり次第で磨けるようになることも可能です。
歯磨きトレーニングでは以下のようにトレーニングを進めていきます。

ゴールの設定 どれくらい歯磨きが出来るようになればいいか、目標を一緒に立てます。正しい歯磨きの方法を学びます。
動物との信頼関係構築 歯磨きの大切さを動物自身は理解してくれません。
無理矢理やると、口の中に人工物を突っ込まれて飼い主様がただ嫌なことをやるだけという印象になってしまいます。そこで歯磨きの前提として飼い主様と動物の信頼関係をさらに高めるためにはどうしていくかをお伝えします。
歯磨き動作のステップ分解 実際に歯磨きで行う動作を細かいステップに分けて一段一段階段を上るように少しずつできる動作を増やしていきます。
自宅トレーニングのチェック 動画撮影をしていただいてご自宅で飼い主様が実際に動物と行っているトレーニングの修正点を見つけていきます。

Case Article猫の歯肉口内炎の症例記事